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この映画観たよ。

ニンフェットの告白……『愛人(ラマン)』 その2 谷崎潤一郎編

こちらの続きです。 

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ロリータ・コンプレックスの語源となった『ロリータ』を書いたウラジーミル・ナボコフが作中の主人公ハンバート・ハンバートにこう言わせている。

 

「おじさん用の魅力的な少女って特別だからニンフェットって呼ぶよ。とびきりの美人とは限らないけど、芸術家で変態な僕らにはわかるんだよね。他の子供の中にいても、すぐにわかる。彼女は自分がすごい力を持っている自覚はないんだよね」(拙要約)

 

……と言われても、本当にそんな少女っているんでしょうか。というのが私の疑問でした。

 

 

理想の美少女を追い求める、執念の変態さんたち……。

 

さて、谷崎潤一郎です。

 

谷崎潤一郎は日本が誇る変態文豪だ。彼はロリコンではないが、やはり素質のある少女を育て、自分はその奴隷になりたいみたいなマゾヒズムの持ち主だ。

そして足(feetの部分)フェチなのだ。なぜ、足???まあ、個人の嗜好はいろいろだと思うけど、なぜ足?

  

 

デビュー作の『刺青』(しせい)

刺青・秘密 (新潮文庫)

刺青・秘密 (新潮文庫)

 

 腕のいい刺青師(ほりものし)である主人公・清吉は、理想の美女に己の魂を刺り込みたい!という宿願があって、美女を探している。

 

ある日、かごから降りる女の足を見た! 

彼はふと門口に待っている籠のすだれのかげから、真っ白な女の素足のこぼれて居るのに気がついた。鋭い彼の眼には、人間の足はその顔と同じように複雑な表情を持って映った。その女の足は、彼にとっては貴き肉の宝玉であった。拇指から起こって小指に終わる繊細な五本の指の整い方、絵の島の海辺で獲れるうすべに色の貝にも劣らぬ爪の色合い、珠のような踵のまる味、清冽な岩間の水が絶えず足下を洗うかと疑われる皮膚の潤沢。この足こそは、やがて男の生き血に肥え太り、男のむくろを蹈みつける足であった。この足を持つ女こそは、彼が永年たずねあぐんだ、女の中の女であろうと思われた。清吉は踊りたつ胸を押さえて、その人の顔が見たさに駕籠の後を追いかけたが、二三町行くと、もうその影は見えなかった。

 足(feet)を、こんなにも美しく詳細に描写したものを読んだことがありません。

清吉は、足だけ見た女を探し求めていたが一年後に発見する。足だけを手掛かりに……。これがすごい美女だったわけで。

 

年頃は漸う十六か七かと思われたが、その娘の顔は、不思議にも長い月日を色里に暮らして、幾十人の男の魂を弄んだ年増のように物凄く整って居た。それは国中の罪と財との流れ込む都の中で、何十年の昔から生き代わり死に代わったみめ麗しい多くの男女の、夢の数々から生れ出ずべき器量であった。

 清吉はその娘に、妖しい巻物の絵を見せる。それは、虐げられた男や男のむくろのそばでそれを眺める美女の絵。

「これはお前の未来を絵に現したのだ。此処に斃れている人達は、皆これからお前のために命を捨てるのだ」

絵を見るうち、娘は、

「親方、白状します。私は お前さんのお察し通り、その絵の女のような性分を持って居ますのさ。――だからもう堪忍して、それを引っ込めてお呉んなさい」

清吉は娘に麻睡剤を使って眠らせ、その背中に巨大な女郎蜘蛛(じょろうぐも)の刺青を刺していく。意識を回復してきた娘に、

「苦しかろう。身体を蜘蛛(くも)が抱きしめて居るのだから」

ああ、ひどい!……しかし、激しい苦痛の後、仕上げがすむと娘は、

苦痛のかげもとまらぬ晴れやかな眉を張って、欄干に靠れ(もたれ)ながら 、(中略)

「親方、私はもう今までのような臆病な心を、さらりと捨ててしまいました。――お前さんは真先に私の肥料(こやし)になったんだねえ」

 と、言って清吉を驚かせる。一夜にして清吉のお望みの女王様になったのだ。

 

デビュー作の短編ながら、すごい迫力です。

 

 

 谷崎潤一郎は長生きしたおかげで作品も多く、結婚も3度、それ以外の女性もたくさんいて、この特集号でその写真が見られます。 

芸術新潮 2015年 12 月号 [雑誌]

芸術新潮 2015年 12 月号 [雑誌]

 

 

痴人の愛』のナオミのモデルとなった、最初の奥さんの妹・小林せい子、細雪』の幸子のモデルとなった、三番目の奥さんの松子、『瘋癲老人日記』の颯子(さつこ)のモデルになった渡辺千萬子の写真も載っていますが、一番の美女は、結婚生活3年で離婚してしまう二番目の奥さんの古川丁未子ではないかと思うのです。

 

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この写真でははっきりしませんが、沢口靖子みたいな美女だなーと思いました。

 

でも、美貌だけではだめなんですね。きっと、その道の達人だけがかぎ分けられる、ニンフェットたる素質がないと……。

 

余談ですが、芸術新潮の特集の中で、高輪プリンスのプールサイドで、シンクロで伸びた足を眺める高齢の谷崎の写真がありました……。趣味は一貫しているなと思うのでした。

 

続きます。

 

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