「黄金のアデーレ 名画の帰還」
ギンレイホールの、ナチスドイツに略奪された美術品に関する映画の二本目は、クリムトの「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 1」にまつわる話です。
まぁ、なんと美しい絵でしょう……。映画の冒頭に、金箔をはりつける画家の様子が映りますが、金箔って日本の技術では?と思ったら、やはり琳派の影響を受けて、日本の金箔を使っているようです。(……という説明はなかったと思うから、確信はないけど)
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これは、とーーってもおもしろかったです!
老婦人が友人から、「弁護士の息子が独立したけどうまくいってないの。何か仕事はないかしら?」と言われ、その若い弁護士に会ってみることに。
ライアン・レイノルズは、『あなたは私の婿になる』(2009年)でも、サンドラ・ブロックの情けない部下で、次第に男らしさを見せる役が大当たりだったけど、この映画でも同じような役です。頼りなさそうな、若い弁護士ランドル。
老婦人が相談した案件は、途方もない大きなものだった。
アメリカで小さくて上品なブティックをやっている老婦人。彼女は第2次大戦下、オーストリアから亡命したユダヤ人、マリア・アルトマン。マリアの姉が亡くなり、形見の品物を見ているうちに思いつく。クリムトが描いた、叔母アデーレの肖像を取り戻したい……。
駆け出し弁護士と老婦人は、オーストリアのモナリザと言われるほどの名画を取り戻せるのでしょうか?
以下、ネタバレの内容を含みます。
弁護士のランドルが調べると、アデーレは遺言で、絵をアデーレの夫に譲ること、夫の死後はオーストリアのベルベデーレ美術館に寄贈することを書き残していた。その文書の開示を受けるため、オーストリアへ飛ぶ二人。
マリアにとって、オーストリアへ戻ることは大変な苦痛であった。
裕福なユダヤ人として育ったマリアがウィーンで結婚したときは、家にたくさんの客が集まり、豪華な披露宴が催された。そのときすでに亡くなっていた叔母アデーレの形見の首飾りを、マリアは叔父から譲られる。クリムトの絵にも描かれた、ダイヤと色とりどりの宝石で作られた幅広のチョーカーだ。しかしすでに戦局は怪しく、国外に脱出するのが遅れたマリアと夫、マリアの両親は、オーストリア人たちが旗を振ってナチスを迎えるのを目の当たりにする。
オーストリアという国は。
長年侵略や占領の憂き目にあって、どんな征服者でも迎え入れるのが一般市民の処世術のようになっている国なんですね。手のひらを返したように、ナチス色に染まり、ユダヤ人を弾圧し始めるオーストリア人。マリアの家は、財産を奪われ、クリムトの絵も、チョーカーもみんな略奪された。家には監視が付き、マリアと夫は脱出に成功するが、両親を連れて出ることはできず、それが最後の別れになった。
この苦しい思い出の詰まったこの国へもどるマリア。すると、援助を申し出るオーストリア人の青年が現れる。彼は親世代が親ナチスの時にしたことを、償わなくてはならない、と考えているのでした。
アデーレの遺言状は本物だった。しかし、ランドルは更に事実を掘り出していた。絵は、アデーレの夫が生存中に美術館に渡されていること。さらに、絵の所有権は元々アデーレにはなく、夫(マリアの叔父)の物であったこと。
マリア側の主張にも正当性があることがわかってきた。マリアは、絵をアデーレの故郷オーストリアからアメリカへ移すつもりはない、ただ、美術館は略奪して入手したものだということを認めてほしい、と訴えるが、美術館と政府は絵を返還することはありえない、と強硬な姿勢を見せてきた。しかもオーストリア内で訴訟を起こすには莫大な委託金が必要になる。
二人はあきらめてアメリカへ戻りました。
しかしランドルはこのことが頭から離れず、ついにアメリカ国内で訴訟を起こすことができることを発見!美術館側がアメリカへ呼ばれることに。マリア側は勝ち続け、最高裁にまで行きます。
このころ、アメリカでエスティー・ローダー社の御曹司から、絵が返還されたら買い取りたい。そのために優秀な弁護士を用意できます、とマリアに話がきます。でも、あの弁護士を気に入ってるのよ!とマリアはその話を断ります。
オーストリア側が訴訟を長引かせ、高齢のマリアの亡くなるのを待つつもりだ、と思ったランドルは、もう一度オーストリアへ戻って、なんかよくわからない(すみません。笑)第三者による裁定みたいなシステムを使って決着をつけようとします。もうオーストリアへ行くのはいや、というマリア。オーストリアで一人で戦うランドルの元へ、結局はマリアも駆けつけ、二人は見事勝って、絵の返還が認められました。
ずっと意地悪な態度だった美術館の代表が、平身低頭して頼みます。絵を買い取らせてもらいたい、オーストリア国外に出さないでもらいたいと。でも、マリアは往時に受けた仕打ちと、今回の対応で、オーストリアにすっかり愛想をつかしていた。オーストリアのモナリザと呼ばれた絵はニューヨークに移されます。
頼りなく見える若い弁護士と、ピンと姿勢正しい老婦人、ヘレン・ミレンですから、もう言うことなしですが、この二人がオーストリア政府相手に戦って勝つところも痛快ですが、たびたび挿入されるマリアの思い出の中のオーストリア。これが素敵で切なくて悲しいものです。
若くして亡くなった叔母のアデーレ。幼いマリアがアデーレの膝に乗って、クリムトの絵を見ているシーンがあります。「なんで金色なの?」「クリムトさんだからよ」みたいな会話があったかと……。アデーレは本当にきれいなんです。
ナチスに旗を振って出迎えた後、市民はユダヤ人の家の前にペンキで落書きをします。石畳にはいつくばって消すユダヤ人一家と、それを足蹴にするばかりにののしりながら見ている市民たち。
両親と涙の別れの後、走って走って逃げるマリアと夫。追手からかくまってくれる人、見つけて指さす人の間を逃げるシーンも迫力満点です。
とても堪能しました。