7月に読んだ本のまとめ 『白鯨』メルヴィルの饒舌との闘い
この映画を観たもので、なんとしても『白鯨』を読まなくては……と思ってしまいました。
ついでに、毎月参加している読書メーターのイベント
ガーディアンの必読小説1000冊の中から、7月に読むのは War and Travel カテゴリーだったので、『白鯨』もお題本の一つに入っていて一石二鳥(^^♪、と思ったのですが、これがなかなか大変でした。
だって、岩波文庫のたっぷりした3巻なんです。そして、鯨・捕鯨の豆知識、いやメルヴィル先生が調べた知識の集大成?がつまった薀蓄本です。饒舌な文体ですが、翻訳もとてもよかったです。
ペパリッジファームに、「ナンタケット」というビスケットがあるのを見つけて、甘いものに励まされつつ、アメリカ本土からナンタケット島、大西洋から太平洋を航海しながら、メルヴィル先生の語る鯨学にどっぷり浸りました。
これを今月の一冊にします。
2016年7月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:4104ページ
ナイス数:1067ナイス
映画「白鯨との闘い」を観たので本にも挑戦。厚い文庫本の上中下三巻だ。映画でメルヴィルをベン・ウィショーが演じたので、脳内メルヴィルにおいおい盛りすぎだろうと突っ込んでしまう。とても饒舌で且つエンタメ性の高い小説だ。上巻の1/3を過ぎても出港地のナンタケット島にさえ着かず、2/3頃でやっと乗船。しかし、ついに姿を現したエイハブ船長がこの航海の目的を告げ、その悲願を達成するよう誓わされた主な乗船員たちが慄然とするところで上巻が終わり、なかなかスリリングだ。しかし、冒頭の「主要登場人物」はネタバレしすぎ……。
この時代、人種差別みたいなことはまだ全然言われなかったのかしらん?鯨の種類は詳しく言及されているのに、人間の種類は……? しかし銛打ちが、人食い人種、インディアン、黒人の大男3人組で、キャラはわかりやすく立ってる!!
読了日:7月21日 著者:ハーマン・メルヴィル
ピークオッド号の航海は進み、鯨や他船との何度かの遭遇が語られる。そこはとてもスリリングだが、この中巻の大部分は膨大な鯨と捕鯨に関する知識が、詰め込まれているのだ。……なるほどこの時代、鯨の全容を一望に見る機会はなかっただろうから、手足のない豚やカボチャに似た姿に描かれることもあったのだろう。頭に巨大なこぶを持ち、左右の後方にあるので一つの視野を結ばない目の不思議や、歯のあるマッコウ鯨について。灯りのために絞りとられる鯨油、捕鯨の道具、歴史、社会的受容などについて、筆の力で語るぞ~!という意気込みだ。
この知識の集大成は、当時の読者にはとてもおもしろく読まれたのかなと思う。歴史的部分はともかく、科学的には現代の科学で検証してどれくらい合っているのかと思ってしまったりするが。日の出に向かって一斉に尾びれを上げる様子を見て、「鯨こそこの世でもっとも信心ぶかい存在である」と断言したりする論調に、くすりと笑える箇所もいくつか。
読了日:7月26日 著者:ハーマン・メルヴィル
- 作者: ハーマン・メルヴィル,Herman Melville,八木敏雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/12/16
- メディア: 文庫
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下巻に入り、饒舌な薀蓄の章がさらに続くものの、次第にモービィ・ディックとの闘いに向けて話が盛り上がっていく。白鯨を目撃し戦った船たちとの邂逅、追跡の1日目、2日目。この2日目まで、白鯨は船を壊すものの積極的に人命を奪おうという気配がない。圧倒的な力の差を見せつけられたのに、船中エイハブ船長の熱狂が乗り移った状態で追跡を続ける。そして3日目の惨劇は、上巻冒頭の人物紹介に整理してある通りだ。(なんてハラハラできない人物紹介でしょう!!)
(有名コーヒーチェーン店がその名をもらった)スターバック一等航海士は引き返すように何度もエイハブ船長をいさめるが、決心を翻すことができない。それでもお互い熱い気持ちで理解しあうような場面も……。コーヒーチェーン店の創始者の一人は「ピークォッド」(船の名前)と名付けるつもりだったのを、他の人の意見を入れて「スターバックス」にしたらしい。それほどこの冒険物語が大好きだったのだろう。
読了日:7月29日 著者:ハーマン・メルヴィル
通夜の一日を描くが、子供5人、孫10人、ひ孫3人で連れ合いもいたりして、途中から戻って家系図を書きながら読みました。引きこもりの孫、外国人の婿など各人の事情もあり、葬式あるあるなエピソードが語られて読みやすいが、語り手が大人数の間で自在に移り、誰の視点なのか曖昧なところに、おやっ?という不思議な空間を入れてくる。その不思議な空間が強調もされず、露悪的でもなく、さりげないところがなかなか良かったです。日本語でしか書けない物語だと思います。
2015年下半期芥川賞受賞作
読了日:7月1日 著者:滝口悠生
前から気になっていたこの本、谷川さんの少年時代に実際に亡くなったしまった「かないくん」がいたそうですね。かないくんのことを語るおじいさんは、物語の中で亡くなってしまいました。孫の少女に未来へのバトンを渡して……。そして私は谷川さんが亡くなってしまったら寂しいなと思いました。松本大洋さんの印象的な絵も素晴らしいです。先日「折々のうた」出版記念講演会で、谷川さんと工藤直子さんのお話を聞いてきました。お二人とも80overですがとてもお元気でした。
その後、工藤直子さんが松本大洋さんの母であることを知り、松本大洋さんが有名な漫画家であることを知り、有名な「かないくん」が、松本大洋さんの絵だと知りました。ほぼ日のホームページの、谷川さんと松本さんの連載など読んで感慨にふける私……今頃ですが(^^;
読了日:7月2日 著者:谷川俊太郎
ブラッドベリを私に紹介したのは萩尾望都だ。短編を少し読んだが、この本は初めて。焚書が職業の主人公が「本が鳩のように羽ばたきながら死んでゆくのを」見ている。詩情豊かなブラッドベリらしい表現だなと思う。無垢な主人公。彼の心を開かせる少女。本に精通している彼の上司。どうしてこんな世界になったのかを説明してくれるのもこの男だ。一番怖いのは妻ミルドレッドに代表される一般市民だ。こんな状況にずるずる落ちて、生きていると言える状態なのか不明な社会。明るさを見せた終わり方がちょっと意外だったが、私もやはり人間を信じたい。
読了日:7月7日 著者:レイ・ブラッドベリ
このブラッドベリは、やはり読書メーターのイベントで読んだものです。
ガーディアンの1000冊コミュニティが始まって1年記念に、自分の一押し5作品を投票して集計しようというもの。『華氏451度』は2位に入りました。他は何が選ばれたかは、上のリンクでご覧ください。
ちなみに私のベスト5は、
まだ73冊しか読んでいません。ベストを選ぶとどうしても好きなもの、そしてとくに昔から好きなものが残ってしまいます。トルストイ『戦争と平和』、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』、ジャン・コクトー『恐るべき子供たち』、ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』でお願いします。 集計が大変ですね、YuriLさんありがとうございます。楽しみです(^^♪
という次第。私の選んだもので全体のベスト5に入ったのは、アリスだけでした。
チョコレート工場の秘密 - Charlie and the ChocolateFactory【講談社英語文庫】
- 作者: ロアルドダール,クウェンティンブレイク
- 出版社/メーカー: 講談社インターナショナル
- 発売日: 2005/06/08
- メディア: 文庫
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翻訳を読んだのはずいぶん昔で、だいぶ話を忘れていました。そのときはちょっと怖い感じの挿絵がついていて、4人の祖父母が寝ているベッドをひどく恐ろしいものに感じましたが、クェンティン・ブレイクの挿絵だとすべてがコミカルに。この画家はダールの児童書の挿絵の定番のようですね。原文はとても読みやすかったです。チャーリーのうちはとてもひもじくてかわいそうなのですが、その後甘いものがどっさり出てくる話なので食傷しないための予防線かと(笑)。他の子どもたちがひどい目に合うところなど、さすが奇妙な味の作家です。
キンドルで買うより安かったのでこちらの本を読みましたが、時々調べたい単語が出て、Weblioで調べるのさえおっくうになるとは……便利なものにはすぐ慣れてしまいますね。こんな怠け者の私はお仕置きを受けて、ウンパ・ルンパになんか歌われそうです。
読了日:7月10日 著者:ロアルドダール
「チョコレート工場の秘密」を読んでいるときに、読友さんのレビューでこの本を発見。途上国の低賃金の手作業と、先進国の機械化された食品加工技術の賜物であるチョコレート。カカオ豆の歴史はコーヒーや紅茶より古い。貨幣を持たない未開人の貨幣の代わりにもなった。チョコレートの「スレイブ(奴隷)・フリー」を目指すハーキン・エンゲル議定書は、未だに目標を達成することができていない。ウンパルンパの人権問題を考えた1冊でした。(この本には他の魅力もたくさんあり!笑)
読了日:7月14日 著者:サラ・モス,アレクサンダー・バデノック
私の感想に、
イギリスがEU離脱にチョコレートの成分問題があったという例えがニュースになっていると報じられました。
というコメントを寄せてくださった方があり、ちょっと調べたところ、(いや、おおざっぱな調査で間違ってるかもしれないのですが)、カカオの含有量がベルギーなど100%を求めるのに対して、イギリスの基準は甘くて植物性油脂を入れたりする、そこをEUで統一基準を作っていたところ、離脱したのでそれを守らなくてよくなった。イギリスのチョコレートはまずくなるに違いない、というようなことらしいです (ちょっといいかげんかも)。しかしそのカカオの含有量の基準は、アメリカではさらに低く、日本はもっと低い。でもそのおかげでチョコレート菓子のバリエーションは豊富、ということも言えるらしいです。これもあやふやながら、なるほどそうかも、と思っているところ。笑
チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)
- 作者: ロアルド・ダール,クェンティン・ブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,柳瀬尚紀
- 出版社/メーカー: 評論社
- 発売日: 2005/04/30
- メディア: 単行本
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柳瀬尚紀さんの新訳を読む。とても読みやすく、脚韻を見せるため、下揃えにしているとこともいいなと思う。子供たちの名前の訳は、ちょっとやりすぎな感じが……(特にヴェルーカ・ソルト→イボダラーケ・ショッパーなど)。ユーモアがブラックで、子供向けにはどうかと思われるが、魅力的なモチーフ、スピード感のある展開であっという間に楽しく読める。
読了日:7月14日 著者:ロアルド・ダール
ひと目見ただけで、夢にうなされるほどの醜い顔を持つ少年オギ―は、珍しい難病で子どもの頃から手術を繰り返してきた。10歳になり、健康状態もよくなったので、初めて学校へ通うことになる。5年生で中等部の1年はなかなか厳しい学年だ。生徒たちの驚愕のまなざしや、遠巻きに避けられたり、いじめられたり、学校生活は厳しい。最初の章はオギ―の一人称だが、章立てで視点が変わり、オギ―の姉、級友たち、姉の友人たちの立場から見ると、オギ―がいかに家族の愛に育まれてきたかということが分かってくる。おもしろくて一気に読みました。
続編もあり、ジュリアン、シャーロット、クリストファー(幼いころの親友)の視点から書かれているようです。映画化も決定していて、オギ―は「ルーム」のジェイコブ・トレンブレイ。両親にオーウェン・ウィルソンとジュリア・ロバーツの豪華な顔ぶれです。
読了日:7月14日 著者:R・J・パラシオ
『門』は漱石の中でも、夫婦の睦まじさがよく表れている話だ。主人公の宗助が世間的地位も財産も失ったのは、ひとえにこの女性を得るためであった。毎日の勤務、面倒を見なければいけない弟や、親戚との交渉など、穴の開いた靴も買い替えられないような経済状態だが、ランプの灯りの元に二人でひっそり会話しているようなところがいいなと思う。特に病がちな御米が、元気な笑顔を見せるときの「晴れ晴れしい眉を張った」といういい方が好きだ。坂の上に住む大家の坂井。子どものたくさんいる坂井の家は夏目漱石家を連想させる。
朝日新聞連載で読んだので、底本のこちらで登録です。
読了日:7月15日 著者:夏目漱石
ガラスの大エレベーター (ロアルド・ダールコレクション 5)
- 作者: ロアルド・ダール,クェンティン・ブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,柳瀬尚紀
- 出版社/メーカー: 評論社
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
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『チョコレート工場の秘密』に続編があることを初めて知りました。『チョコ…』のラストでチャーリーの家族を迎えに行ったガラスのエレベーターは、チャーリーと4人の祖父母、両親、ワンカ氏を乗せたまま大気圏を飛び出し、地球の軌道に乗って開発中の宇宙ホテルUSAと遭遇。NASAや大統領には火星人のふりをしたり、襲ってくる害獣を振り切って地球へ生還。この間、ワンカ氏に悪態つき放題だった3人の老人たちは、工場へ戻ってちょっとお仕置きを受けます。ワンカ流ドタバタが続く中、今回唯一の子どもチャーリーは成長した姿を見せます。
最後、大統領にホワイトハウスに招待されますが、これはアメリカの話だったのか?……と思う私。最初に読んだ『チョコレート工場』の講談社の英語版ではチャーリーが拾うのは1ドル。柳瀬訳では50ペニーと貨幣が米英に分かれていたので、講談社はなんで米国版を底本にしたのか?と思っていました。元々はイギリスを舞台にして場所は読者の想像にお任せくらいな感じか?と思ったのですが、大統領に招待されたおばあちゃんたちのはしゃぎっぷりを見ると、どうなんでしょう?と思います。副大統領は大統領の乳母で実権の持ち主。このキャラが最高でした。
読了日:7月16日 著者:ロアルド・ダール
国際子ども図書館の「世界を知る部屋」で、トルコの本を読もうと思い、目を引いた一冊です。カッパドキアのギョレメ村に魅せられた著者が現地の人々に交じって暮らす様子が詳しく描かれています。(イスラム教徒も割礼をするとは知りませんでした……って、そこ?笑)
読了日:7月22日 著者:新藤悦子
もったいないばあさんの てんごくと じごくの はなし (講談社の創作絵本)
- 作者: 真珠まりこ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/09/23
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国際子ども図書館で、小展示、2015年日本の児童文学賞受賞作がありました。本作品は「第25回けんぶち絵本の里大賞」受賞作。もったいないばあさんもいろいろ出てるんだな〜と感心します。地獄と天国を視察?する、もったいないばあさん、死んじゃったの?とちょっと心配。
読了日:7月22日 著者:真珠まりこ
「そもそも、なんで猫になんか話しかけてるんだ?こっちの話を理解できるわけでもないのに」そう思っても、みんなアルフィーに話しかけてしまう。自分の悩みを。苦しさを。寂しさを。そしてアルフィーは言葉を理解できないどころか、本人以上に人の気持ちがよくわかる猫なのだ。……飼い主の老婦人が亡くなって、野良ねこになってしまったアルフィー。飼い主が一人だけでは心配だから、何軒か餌をもらえる家を確保しようと思いつく。エドガー・ロードの「通い猫」となったアルフィーの起こす、心温まる奇跡とは……?
読了日:7月31日 著者:レイチェルウェルズ
この本は、読書メーター×ダ・ヴィンチの「レビュアー大賞」の課題本。一応、販促レビューっぽい感想を書いたつもりなんです(*‘ω‘ *) でも、ちょっとネタバレが入りすぎてるかな。u_u
The Tale of Mr. Jeremy Fisher (Peter Rabbit)
- 作者: Beatrix Potter
- 出版社/メーカー: Warne
- 発売日: 2012/01/19
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Publisher's Noteによると、カエルのジェレミー・フィッシャーは、もっとふわふわのキャラクターに比べて魅力がない、となかなか本にならなかったそうですが、ポターはお花が背景に出てくる話だし、と出版社を説得したそうです。本書は、ケネス・グレアム『たのしい川べ』が出版される2年前の1906年に出版されました。イモリがなぜアイザック・ニュートンという名前なのかと思ったら、newtがイモリという意味なんですね。
読了日:7月31日 著者:BeatrixPotter
ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし (ピーターラビットの絵本 17)
- 作者: ビアトリクス・ポター,Beatrix Potter,いしいももこ
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2002/10/01
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びしょびしょの家に喜んで住んでいるカエルのジェレミー・フィッシャーどんは、楽しく釣りに出かけてさんざんな目にあいます。トゲウオに暴れられて痛む指をくわえているところがかわいいです。お客は身分の高そうな亀とイモリですが、ポターの父の釣り仲間がモデル、と表紙裏にありました。
読了日:7月31日 著者:ビアトリクス・ポター