11月に読んだ本のまとめ
ドナルド・キーン氏が、戦時下『細雪』を書き続けたことが谷崎の静かな抵抗だったと言うのを聞いて落涙しました。今月の一冊です。
『細雪』は大好きな本で何度か読んだのだが、最近『瘋癲老人日記』や『痴人の愛』を読んだので、今回は『細雪』のなかに谷崎らしい変態を探す旅だったのだが、次女幸子(谷崎の3番目の妻・松子がモデル)の夫・貞之助は妹たちの面倒をよく見ながらも奥さんを大切にする品行方正模範的夫で、あくまで姉妹たちの引き立て役に徹しているのでした。この本を一口にどういうもの、とは言えませんが、今回もとてもおもしろかったです。
中公文庫のこの本は新潮文庫の3巻分を1冊に納めたもので、4㎝弱の無茶な厚さです。雪子を吉永小百合が演じた映画も続けてみましたが、映画の貞之助(石坂浩二)は雪子を女として見る男に描かれていました。原作以上に重要な役回りの長女・岸恵子は実に華奢で綺麗でした。幸子は佐久間良子、お風呂のシーンがある妙子は古手川祐子でした。
読了日:11月18日 著者:谷崎潤一郎
2015年11月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:4730ページ
ナイス数:1080ナイス
カフェエの女給見習いであった15歳のナオミを見初めて、理想の女に育てようと引き取る男28歳。ナオミは甘やかされて、わがままに奔放にふしだらになっていき、夫となった男は翻弄される。本文中の年齢は数えであるので実際はこれより1、2歳若いということだ。修羅場のときは、ナオミは17、8歳ということになる。(ナボコフならそろそろ捨てられてしまう年齢だw) 大阪朝日新聞で連載開始したものの当局の検閲から干渉を受け、途中で掲載中止。雑誌に連載の場を移したという。河野多恵子さんの解説が谷崎愛に溢れていて絶賛ぶりがすごい。
読了日:11月2日 著者:谷崎潤一郎
羽田圭介さん『スクラップ・アンド・ビルド』を読んだ後は、筋トレしたくなってしまいます(*'ω'*) モチベーションが上がる言葉たち。「残りの人生のなかでいちばん若い日である「今日」から筋トレを始めましょう!」「現代はいろいろなものがお金で買えますが、筋肉は金では買えません。」もちろん1分では筋肉はつかないので、筋トレしよう!と考える1分が大事ってことでしょうか。
読了日:11月2日 著者:大西仁美
没後50年『細雪』の講座を受講することになり、谷崎予習中。この本は入口は「悪女カタログ」な感じで始まりますが、谷崎の文体を生かした要約や、エッセイ・評伝良かったです。桐野夏生が学生時代、谷崎の「過剰ともいえる大阪弁の表記」が苦手であったこと、それは「上方女への偏愛」を感じ取ってそれが面白くなかったのだと書いているのは、私ももやーっと感じていたことですっきりしました。評伝まで読み進むにつれ、「上方女にわざわざこまされに行った、実に雄々しい男が一人すっくと立っていた」谷崎潤一郎像がつかめた感じがしました。
読了日:11月3日
三島由紀夫はあまり読んでなかったのだが、この本は初読みで、ちょっと衝撃だった。性的な倒錯がある人ほど、性について深く逡巡し思い悩むものなのか。近江と雪の中で出会うシーンは、コクトーの「恐るべき子供たち」とイメージが重なる。ポールは憧れの少年から興味の対象を女性に移すが、近江に嫉妬を感じた時点から、彼はナルシズムの道へ進む兆しが見える。プラトニックな愛情は園子の上に。しかし自涜の対象は聖セバスチャンのイメージなのだ。
読了日:11月9日 著者:三島由紀夫
冒頭、37歳の僕がI only felt lonely, you know.とドイツ人のスチュワーデスに言うところで村上劇場の始まり~と思う私は……。「あなたってハンフリー・ボガードみたいなしゃべり方するのね」「あなたって何かこう不思議なしゃべり方するわねえ。あの『ライ麦畑』の男の子の真似してるわけじゃないわよね」饒舌な女たちにそう言わせるのは、私のような読者への言い訳かと思ったり。下巻へ続きます。
読了日:11月11日 著者:村上春樹
姉と恋人に自殺されてしまう直子。両親を次々に脳腫瘍で亡くす緑。そんな二人を愛する主人公もまた、親友と恋人に自殺されてしまう。死と愛と不完全なセックスに満ちた話だが、饒舌ぶりも気にならず、一気に読めた。読みやすい。ラストもよかったです。「男流文学論」というフェミニスト3人の女性が男性の作家をぶった切る本を読んでいるのですが、3人と一緒に突っ込みを入れたくて予習で読みました。3方の毒舌が楽しみ。読後気づきましたが、ガーディアン紙の1000冊にも入っているんですね。春樹ではこれが入るのか……。61/1000冊
読了日:11月11日 著者:村上春樹
スコットランド・キルト・コレクション (制服・衣装ブックス)
- 作者: 石井理恵子,杉本優,松本里美
- 出版社/メーカー: 新紀元社
- 発売日: 2011/04/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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TVドラマ「アウトランダー」を観て以来、キルトを着た男性がとてもセクシーに見えます(*'ω'*) スポーランという、ポケット代わりのポシェットみたいなのの華やかさにも見惚れます。今では数少なくなったそうですが、制服にキルトを取り入れている私立学校もあり、着用するのは式典の折だけだそうですが、男子に限りファミリー・タータンがある人は、それを着てもいいとか。表紙中央の若者二人がそれです。アイルランド出身の俳優たちや、チャールズ皇太子もスコットランド訪問の時は着用されるとか。写真がいっぱいあって楽しめます。
読了日:11月18日 著者:石井理恵子,杉本優
2,3ページ読む間に声をあげて笑ってしまう。サプリメントのような本だ。
読了日:11月18日 著者:ほぼ日刊イトイ新聞,祖父江慎,しりあがり寿
フェミニスト3人の鼎談だが、とてもおもしろい。文学論を読むのに一人のご高説を読むより、こんな風に意見を戦わせているのを読むのは楽しいものだ。そして3人とも作品と共に書評等も読み込んで臨んでいるので話は真剣勝負だ。俎上に乗せられたのは、吉行淳之介・島尾敏雄・谷崎潤一郎・小島信夫・村上春樹・三島由紀夫で、みんなボコボコにされるが一番のサンドバッグは、吉行淳之介だった。私も直前に谷崎、春樹、三島由紀夫を読んだが、3人と必ずしも意見は合わない。だから余計おもしろいんだな。
読了日:11月18日 著者:上野千鶴子,富岡多恵子,小倉千加子
精神科医としてハンセン病患者につくした神谷美恵子の伝記です。大正3年生まれ(『細雪』こいさんの3つ下)、ジュネーブの帰国子女、英文学、渡米してギリシャ文学・医学を学ぶ大変な才女だ。二度の肺結核を生き延び、ハンセン病患者につくしたい一心で、精神科医になる。結婚して子供を持ち、大学で教鞭を取りながら、長島の愛生園へ通う。皇太子妃美智子様のお話相手を務めたり、立派すぎるエピソード満載な本でした。ただ、隔離は差別から守るためという光田健輔の影響下にあり、批判を受けている人物でもあるが、そんなことは書かれていない。
読了日:11月19日 著者:大谷美和子
お母さんからのメールはありがたいですね。文章の打ち間違いをあげつらいつつも、母からのメールということでほのぼの感が漂います。でも、予測変換による偶然の間違いって、それほど続けて笑えない。お母さんが予測変換の間違いをそのまま送ってくるわけは、小さい文字が見づらいからなんですよ~。
読了日:11月20日
- 作者: J.M.クッツェー,J.M. Coetzee,鴻巣友季子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/07
- メディア: 文庫
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南アの首都ケープタウンの大学に勤める52歳の文学教授(英ロマン主義が専門)は女子学生に性的関係を強要し、そのことを訴えられて失職する。自らを弁護することもなく恥辱に甘んじる彼が、娘が暮らす田舎の小さな農園に滞在するところから、本当の栄辱と向き合う事件が起こるのだった……。主語がない日本語と終始現在形の文体に時々違和感(読解力のなさ?)を感じつつ、南アの人種問題に徐々に触れていく部分の理解も遅く、(例えばペトラスは登場したところから黒人ってわかるのかな?ちょっと言葉が変な辺り?)難しかったです。
人生をロマン主義詩人のように語る、むかつく主人公の気持ちは理解できるものの、最悪な状況下でも農園にしがみついて生きていこうという娘の気持ちは理解できない。重いお話でした。
【ガーディアンのイベント本】62/1000冊
読了日:11月22日 著者:J.M.クッツェー
中学の英語の教科書で、塀塗りの章の要約版を読んだだけだったので、今回トム・ソーヤーの世界を堪能しました。前半は読み切り風にエピソードが連なり、家出して大騒ぎになったり、女の子に夢中になったりで、後半はそれらの話がつながって、大団円で終わりおもしろかったです。男の子が読んだらもっとわくわくするだろうと思いますが、私の友人女子は子どもだけど惚れちゃう❤と言ってました。そんな読み方もあり(笑)。訳者の柴田元幸さんの解説を読んで、ハックルベリー・フィンの方も読みたくなりましたが、柴田さんはまだ訳してない(涙)
【マーク・トウェイン誕生日読書会】イベント。 ガーディアンの1000冊、63/1000冊
読了日:11月30日 著者:マークトウェイン
絵本のミリオンセラーは105冊。豪華な顔ぶれと意外な健闘をみせた本たちの表紙を眺めるだけでもとても楽しい。10位までの本で見ると、1960年代初出が8冊。1970年代が2冊。絵本は本当にロングセラーだ。翻訳ものが5冊入っていて、長く読まれているのがうれしい。ミリオンセラーの中でここ10年初出はたった1冊。かがくいひろしさんの『だるまさんが』だ。あっという間に売れて翌年急逝された。中川李枝子、かこさとし、エリック・カールのインタビューもあり。1位~10位までの顔ぶれは以下の通り。
569万部・松谷みよ子「いないいないばあ」、472万部・なかがわりえこ「ぐりとぐら」、368万部・エリック・カール「はらぺこあおむし」、300万部・ウクライナ民話「てぶくろ」、278万部・トルストイ再話「おおきなかぶ」、269万部・なかがわりえこ「ぐりとぐらのおきゃくさま」、268万部・せなけいこ「ねないこだれだ」、267万部・わかやまけん「しろくまちゃんのほっとけーき」、252万部・マーシャ・ブラウン「三びきのやぎのがらがらどん」、245万部・ガース・ウィリアムズ「しろいうさぎとくろいうさぎ」 どれも、子どもが繰り返し読んでとせがむ本だ。意外なことに一番冊数が多かったのは、「ノンタンシリーズ」で11冊のキヨノサチコさんだ。(でもそのことに関しての言及は今回はなかったようだ)
読了日:11月30日
In The Forest (Picture Puffins)
- 作者: Marie Hall Ets
- 出版社/メーカー: Penguin Books
- 発売日: 2006
- メディア: ペーパーバック
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Open Libraryでお借りしました。便利なものですね! 邦題『もりのなか』は何度も読みましたが、英語もとてもテンポがいいです。大きい動物たちを従えて、かわいいウサギをそばにおいて、ハンカチ落としにロンドン橋おちた遊び。不朽の名作ですね。
読了日:11月30日 著者:MarieHallEts