「神様メール」 余命の長さを知った人々
10/8(土)~10/21(金)のギンレイホールは、ベルギー・フランス・ルクセンブルグ合作映画「神様メール」とタイ映画「すれ違いのダイアリーズ」の二本立てです。
この二つの共通点は……運命!かな?
「神様メール」
オフィシャルサイト:映画『神様メール』大ヒット上映中!
IMDb:
Le tout nouveau testament (2015) - IMDb
「神は実在し、ブリュッセルに住んでいる」予告編の第一声です。
これが神様の一家。お父さん、神。お母さん、女神、私10才。お兄ちゃんのJCは、貼り付けになって今は置物になっているけど、私の良き相談相手だ。生まれて10年来この家に閉じ込められて、お父さんの横暴に耐えている。
お父さんの神は嫌な奴で、世界を作った後は、暇つぶしに事故や天災を起こしたりする。家でも、奥さんを馬鹿扱いにしてどなりつけ、反抗的になってきた娘には暴力をふるう。
私、神の娘エアは、お兄ちゃんJCのアドバイスを受け、ひどいことばかりしている神から世界を解放しようと考える。
まず、世界中の人にメールで余命を伝える。
次に、世界に行って使徒を集める。新・新約聖書を書いてもらう。フランス語で Le tout nouveau testament というこの原題、英語では The Brand New Testament だ。
奇抜な設定で、ふざけたコメディなのかと思っていたのですが、これがなかなか深い味わいのある映画でした!
余命をメールで受け取ると、メールの中で秒単位までのカウントダウンが続く。
12人いる使途に加えてあと6人集めるんだ。とJCにアドバイスを受けたエアは、神のファイルから適当に6人を選び出す。
使途に選ばれた6人と、新・新約聖書の執筆を頼まれたヴィクトールとおまけのゴリラくん。ゴージャスなおばちゃんがいると思ったら、カトリーヌ・ドヌーブ様!(上段左端)
以下、ネタバレの内容も含みます。
神の横暴に耐えかねて家出した娘が、使徒6人をそろえて、新・新約聖書を書いてもらい、兄JC(キリストですね)の後をついで新しい預言者となる……というようなストーリーになるのですが、神にいかに操られているかを全世界の人に知ってもらいたい、という思いから、エマは余命時間をメールで送るのですが、送られた人々の生活は一変します。
余命が何十年分もあるからと、無茶を繰り返す青年もいれば、余命数十日、と言われた人は、もうやりたいことをやろうと思うばかり。
余命5年、と言われればずいぶん短い感じ。10年なら?20年なら?自分のことのように考えてしまいました。
何年と言われても、期限付きの命であることを意識した瞬間から、人々は真剣に自分の人生について考え始めます。
ホームレスのヴィクトールに手伝ってもらいながら、使徒に選んだ人たちを訪ねて話をしてもらうエア。
人々がそれぞれ背負ってきた過去の話、余命を知ってからの思考と行動……深淵を覗き込むような意外な深さを随所で感じさせて、楽しいコメディであり、軽いのに厚みのある作品だと思いました。
エマの母、女神は、夫に怒鳴られながら家事をして、趣味はベースボールカード集め(18人でコンプリートしている)と、刺繍です。お花模様の刺繡なんかしているこのお母さんが……いいですね!
神様はブリュッセルを最初に作って、その町は現代のブリュッセルそのもの。そこへ配置する生物を、キリンとか、にわとりとか、いろいろ配置してみますがうまくいかず、結局自分に似た形で、人間を作り出します。はだかで、現代的なブリュッセルの町をうろうろするアダム。
そして、神様が世界をつくったり、災害を起こしたりするのに使っているコンピュータは、見るからに旧式な、1980年代くらいの大きなデスクトップです。こんな荒唐無稽な設定で、神を悪者にして、怒られないのかなーと心配になりますが、宗教的に保守的な色の強いアメリカでは、映画祭以外では公開予定がないようですね。
でも随所にセンスが感じられて、とても楽しく、また自分の人生まで考えさせられるような映画でした。
(おまけ)
神の子どもなので、少し能力があるエア。
「あなたの音楽がわかるの」と言ってそっと胸に耳をつけるところがとてもかわいいのです。そしてにっこり。「あなたはヘンデルね」という具合。
主演女優の、ピリ・グロワーヌちゃん。ベルギー生まれ。生年不明。いくつくらいかな?