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INPUTして、OUTPUT。

『クリスピン』のアヴィとニューベリー賞

「アヴィ」というペンネームの作家。Aviはヘブライ語で父を意味し、サンスクリット語で太陽を意味し、イランにはその名の土地があるという。どんな人なのかと思ったら、ニューヨーク生まれで、親族に作家が多い、白人のアメリカ人であった。アヴィは、子供のころからのニックネームだという。本名はEdward Irving Wortisだ。(アーヴィングのアヴィかな?)

児童文学・YAを書き、多作な人だという。

 

ニューベリー賞はアメリカで最も権威のある、児童文学に贈られる賞で、毎年ニューベリー・メダル(ニューベリー賞)とニューベリー・オナーブック(佳作)が発表される。

アヴィはニューベリー・オナーブックに2回選ばれ、3度目の正直、『クリスピン』でニューベリー・メダルを受賞した。

『クリスピン』を読書会で読んだときに、「ニューベリー賞がほしくてしょうがなくて書いた本という感じ」という感想を出した人がいたので、他のオナーブックも読んでみました。

 

アヴィの作品が最初にニューベリー・オナーブックとなったのは、この本。 

シャーロット・ドイルの告白

シャーロット・ドイルの告白

 

 【1991 Newbery Honor Book】

1832年、イギリスで教育を受けアメリカに帰る13歳の少女が主人公。舞台は大西洋を航海する小さな帆船だ。家族や付き添いなしで一人で乗船するはめに陥るシャーロットが、それまで受けてきた上流階級の子女としての教育やしつけという真綿の箱から出て、自分で生きて考える力を身に付けていく。

 

この本はおもしろく読めたものの、お嬢さま育ちなせいで同じ階級の船長を信用して、船員たちを裏切ってしまう主人公は、読者の子どもたちにとって好感度が低いのでは、と思ってしまう。後に改心して身を粉に働き、最後は重大な決心をする。この結末に子どもたちは快哉を上げるだろうか?(大人が読むとちょっと心配な感じなのです)

 

アヴィは翌年もニューベリー賞候補になり、オナーブックにとどまった。 

星条旗よ永遠なれ (くもんの海外児童文学)

星条旗よ永遠なれ (くもんの海外児童文学)

 

 【1992 Newbery Honor Book】

こちらはほぼ現代のアメリカ、ニューハンプシャー州。高校が舞台だ。陸上チームに入ればスター選手間違いなしの高校生フィリップ。頭はいいのに勉強しないので、数学はAだけど、英語(国語)はDだ。その英語を教えているのは、勤続21年、ベテランの英語教師ナーウィン先生。誠実な人柄で生徒からも好かれている。この二人の間の些細なトラブルが、周囲の大人たちによって大問題に発展していく。

ハラハラドキドキで一気読みしてしまった。学校の連絡文書、フィリップの独白、ナーウィン先生のお姉さんへの手紙、と事実(フィクションですが)をつらね、どちらの視点にも偏らないように描かれているところがおもしろかったです。

でも読む前に、邦題とこの表紙にはちょっと引いてしまった。アメリカ愛国物語ですか!?という感じを受けます。「星条旗よ永遠なれ」は、物語中の争点になるアメリカ国歌の歌のタイトルということでつけたそうだが、原題は Nothing But The Truth (真実だけを)。法廷で宣誓するときの言葉の一部だそうだ。

 

そして、アヴィがやっとニューベリー・メダルを手にしたのがこの本。 

クリスピン

クリスピン

 

 【2003 Newbery Medal Winner】

中世のイギリスを舞台にした、少年の成長物語だ。中盤から夢中になって、ドキドキしながら読む。絶体絶命な状況から、誰が助けてくれるの?どんな状況が降臨するの?と思って読んでいたら、少年本人が道を切り開いた!

村で皆にさげすまれながら母と二人で暮らしていた名前さえない少年。母が死に際に教えてくれたクリスピンという名前。読み書きもできず、最下層の身分に疑問も抱かず生きてきた少年が、村を追われ、「熊」という大道芸人に拾われて、初めて自分の頭で考え、自分で生きることを知る。貴族の身分を捨てて、自由を選ぶすがすがしい終わり方。でも、これで本当に大丈夫?という疑問が残る。3部作になっているものの、残り2編は未訳だし、ニューベリー賞候補にもなってないので、内容はあまり期待できないのかも。

 

なるほど。ニューベリー賞は英語で書かれていること、最初にアメリカで出版されていることが条件であるものの、歴史ものや、外国を舞台にしたものが受賞することが多い傾向があるらしいので、物語の舞台を14世紀のイギリスまで古くして、無知だった少年の成長していく様子が感動的なまでに顕著に描かれていて、そこが受賞のポイントとして高かったのかも、と納得しました。

ニューベリー賞が取りたくて書いたかもしれませんが、『クリスピン』は文句なしにおもしろい、いい本です。日本版の装丁がすばらしい。加藤俊章さんという方が表紙と数点の挿画を入れています。